やわらかな結合
ITのインパクトが、単に市場を広げる、または、組織内や企業間の調整を強化するだけにとどまっているとしたら、従来に比べて程度が異なるというのにすぎないが、ITは従来の世界よりももっと動的かつ重層的な世界をつくりだすという見方がある。ITは情報の意味内容に関わらずその形式だけに注目して運ぶために、互いに意味することを理解するためのコンテクスト(文脈)を形成するのに役立つ (今井1984)。例えば、ネットワークによって画像データをやりとりするとき、コンピュータはデータの形式だけに注目してその意味には関わらないことでデータを効率的に運ぶことができるが、情報の受け手にとっては時に言語で調整する以上に豊かに意味が伝わることがある。ITは、複数の個人や組織が新しいコンテクストをつくり、そのコンテクストを動的に変化させ、かつ、さまざまなコンテクストに同時に身をおくことを支援するのである。(今井・金子1988)
このような結びつきは、従来の職場や取引関係などにおける結びつきより弱いものかもしれない。しかし、強い結びつきより弱い結びつきが強みを発揮する場合がある。Granovetter(1973)は、転職に関する情報は近しい人よりあまり近しくない知り合いからのもの方が有用であったことを見出した。ITによってさまざまに生み出され、常に変化していくやわらかな連結こそが組織、産業、社会の強さを生み出していくのかもしれない。
【参考文献】
今井賢一 (1984)『情報ネットワーク社会』岩波書店.
今井賢一・金子郁容 (1988)『ネットワーク組織論』岩波書店