モジュール化

竹田 陽子



1.
アーキテクチャのモジュール化

a. モジュール化とは

モジュールとは、ものごとを構成する基準尺度や基本単位のことである。情報技術と組織・産業の相互作用を考えるとき、ものごとの構造(アーキテクチャ)がモジュールによって構成されるようになること、すなわちモジュール化は、重要なコンセプトとして浮かび上がってくる。その第一の理由は、コンピュータ、情報通信ネットワーク、ソフトウェアといった情報技術そのものがモジュール化によって飛躍的な進歩を遂げたことにある。第二に、情報技術が活用されるようになることによって、生産や取引のプロセスを設計する際にモジュール化に代表されるアーキテクチャの問題を考慮する必要が高まり、それが組織のあり方や産業の構造に影響を与えていることである。

アーキテクチャのモジュール化が厳密にはどのような現象を指すのかについては定説があるわけではない。しかし、情報技術が何らかのかたちで関わる製品やプロセスのアーキテクチャにおいては、モジュール化されたアーキテクチャとは次の2つの要件を満たすものを指すことが多い。

1)階層性

あるシステムが複数のサブシステム群によって成り立っており、サブシステム内の構成要素間の相互依存性はサブシステム間の相互依存性よりも大きい。

2)事前に規定されたインターフェース

サブシステム間の接続ルール(インターフェース)が事前に規定されている。

モジュール化に対立する概念は、統合化である。統合化されたアーキテクチャは、システム内の相互依存性が一様に高く、サブシステム間の接続のルールもはっきりしないという状態である。

b. 3つのレベルのモジュール化

モジュール化は、次の3レベルのアーキテクチャに見られる現象である。

1に、伝統的に使われる意味でのモジュール化は、建築物や工業製品、ソフトウェアなどの人工物の構造における現象を指す。後述のように、情報技術は他の分野に比べても顕著にモジュール化の程度がすすんでいる。

2は、生産や取引などのプロセスについてのモジュール化である。プロセスにおいて生じる物質・エネルギー・情報の流れの相互依存性には濃淡があり、相互依存性の高いもの同士をグルーピングし、プロセスのグループ間に一定のルールを設けることによってインターフェースとすることができる。例えば、陸海輸送の分野ではコンテナに荷物を積んだまま運送業者間でやりとりをすることによって輸送プロセスと保管プロセスを分離し、荷役をシンプルにすることを可能にした。この場合のインターフェースは規格化されたコンテナである。

3は、厳密にはモジュール化の概念とは異なるが、組織や産業における分業体型がどのように構成されるのかについてもアーキテクチャが存在し、そこで取り扱われる製品や生産・取引プロセスのアーキテクチャと密接な関係がある。

 

c. オープン/クローズドとの関係

モジュール化と密接に関連する概念は、オープン/クローズドである。 オープン/クローズドという表現もさまざまな意味で使われているが、モジュール化と関連付けられるときのオープン/クローズドとは、通常、モジュール間のインターフェースが社会的に通用する程度のことを指す。 モジュール化されたアーキテクチャにおいて、社会に広く通用するインターフェースはオープンなアーキテクチャであり、特定のグループ内でのみ通用するインターフェースをもつ場合は、クローズドなアーキテクチャである。

 例えば、ステレオは、アンプとスピーカーの接続方法などが規格化され、極めてオープンなインターフェースを持つモジュール化された製品である。しかし、ミニコンポでは、アンプとスピーカーが分かれていても、その接続方法はオープン化されておらず、ユーザーが外部のスピーカーを勝手につなぐことができないものが多い。

図 モジュール化とオープン/クローズドの関係

2. 情報技術とプロセスのアーキテクチャ

a. ハードウェアのモジュール化

 モジュール化された人工物は、建築や各種の機械など古くからさまざまな分野で見られるが、とりわけコンピュータや情報通信ネットワーク技術はモジュール化が進んでいる。例えば、パーソナル・コンピュータの各部品や周辺機器との接続はインターフェースがオープンな規格として決まっているため、相互依存性は極めて少ない。素人にでもデスクトップのパーソナル・コンピュータを組み立てることが可能になったのも、モジュール化が進展したためである。

情報技術においてモジュール化が特に顕著であるのは、部品やデバイスの入出力が0か1かというデジタル信号であることが大きい。建築物や機械は多くの場合、各モジュールが物理的な形状・動作によって連結される。物理的な形状や動作をインターフェース部分で固定しなくてはならないことが全体の設計の制約条件となり、複雑な機能を実現しようとするほどモジュール化が難しくなる。情報技術においても物理的な形状や動作の制約がないわけではないが、建築物や機械に比べればその程度は極めて小さいといえよう。

 今後、家電や自動車など日常生活をとりまく人工物が情報ネットワークに接続されていく傾向がすすむと、情報技術は従来に比べて統合化の方向に、機械・エレクトロニクス製品は従来に比べてモジュール化の方向に収束していくかもしれない。

b. ソフトウェア・通信のモジュール化

 ソフトウェアの歴史は、要求される機能が増えるにつれ急激に増大する複雑性に対処するためのモジュール化の歴史であると言っても過言ではない。

モジュール化の動きの顕著な例は1980年代後半に現れたオブジェクト指向である。オブジェクト指向とは、インターフェースが規定された構成要素を集めてきて組み立てることで目的のプログラムを構築するという考え方で、C++Javaなど以降に登場したほとんどのプログラミング言語に採用されている。

通信における階層の概念もモジュール化であるといえる。通信の取り決めであるプロトコルやデータ形式はモジュールのインターフェースにあたる。インターネットにおいては、インターネット・プロトコルが世界中に無数に存在するコンピュータやモバイル機器を結びつけるインターフェースの働きをしている。

c. 情報技術に支援されたプロセスの再構築

情報技術自体のモジュール化よりもトータルでより大きなインパクトを持っているのが、情報産業以外のあらゆる分野を含めて、情報技術の利用によって生産・取引プロセスのアーキテクチャの再構築がすすんでいることである。

情報技術は、プロセスのモジュール化・統合化の両方を支援し得る。まず、情報技術は、情報の形式や処理の仕方を事前に規定する性質をもつことから、プロセスのモジュール化を促進する。例えば、セールスマンが得意先を訪問して受注活動をおこなう場合、発注情報の収集だけでなく商品に関する情報の提供や納品、売掛の回収などさまざまな活動が渾然一体としていることが少なくない。このような状態にオンライン受注システムを導入すると、それまであまり意識されていなかった取引に関するさまざまなルールや手順を明示化する必要が出てくる。このようなルールや手順がインターフェースとなって、受注情報の流れが他の活動と切り離されるのである。

 一方、情報技術はプロセスの相互依存性を高めるように使うこともできる。例えば、在庫が一定水準以下になると自動的に発注される自動補充システムは、人が在庫を目で見て発注をかけるという作業を省略し、在庫管理と発注作業を統合したといえる。

3. 組織と産業のアーキテクチャ

 組織や産業における分業の構造は、情報技術によるプロセスのアーキテクチャの変化から影響を受ける。しかしながら、その方向は一様ではない。

a. プロセスのモジュール化と分業構造

情報技術によるプロセスのモジュール化は、異なる組織や組織ユニットがそれぞれのプロセスを担当しやすくする。その代表的な例は、旧来の産業に比べて特徴的な構造をもっている情報産業であろう。製造業を中心とした伝統的な産業においては、大企業がサプライヤーや流通を掌握して垂直統合し、フルラインの製品を供給するというモデルがあった。これに対して、情報産業は、特定の製品・機能に特化し、自社が持たない資源は他社から調達し、産業全体として最終的な付加価値を生み出すモデルを持つに到った。モジュール化されオープン・インターフェースをもつ情報技術を開発、生産、販売するプロセスはモジュール化が容易であり、分業が促進されるのである。近年、特定の製品・機能に特化した分業は、情報産業だけでなく旧来の製造業や金融等のサービス業にも広がりつつある。情報技術の採用が進展してきたことと無関係ではないだろう。

その一方で、情報技術が情報処理能力を高めることは、モジュール性の高い複数のプロセスをひとつの部門、企業で担当することを可能にする側面もある。例えば、製品開発プロセスにおいてコンピュータ・シミュレーション技術が進歩したことによって、従来は解析の専門家がおこなっていた解析作業の一部を設計者自身がおこなうことができるようになったという現象が挙げられる。

b. プロセスの統合化と分業構造

 情報技術によるプロセスの統合化もまた、今まで組織や組織ユニットが果たしていた役割を大きくする方向に働く場合と分業を促す場合の両方がありうる。

例えば、前述の自動補充システム導入と同時に、ベンダーが顧客の在庫管理と発注プロセスを受け持つようになる例が見られる。プロセスの統合化が組織の役割を大きくする方に働いたのである。

一方で、情報技術によって異なる企業や部署が互いに調整するコストが下がることは、反対に、従来分業しては上手くいかなかった統合化されたプロセスを異なる組織間や組織ユニット間で協力しておこなうことを促進する一面もある。

例えば、ネットワーク上で世界中に分散するボランティアの開発者が協力し、市販品に匹敵する複雑なソフトウェアを開発するオープンソース・ソフトウェアは、インターネットの出現によって、いままで調整のコストがかかりすぎて分業できなかったプロセスを情報技術の支援により分業可能にしたと解釈することができる。コミュニケーションを助ける情報技術が発達することによって、異質な組織や組織ユニットが一つの目的に向かって協力する能力もまた高まっているのである。

 大量生産・大量販売をおこなうことよりも、製品や販売システムの独自性や需要に対する即応性が競争の焦点になると、知的な生産活動の重要性が高まり、異質な主体が結びつくことが求められるようになる。情報技術によって、異なる特徴や能力を持つ企業、非営利組織、個人を結びつけ、相互に密接な調整をおこなっていくことは、難しい課題であるが、今後進展していくであろう。

4. 誰がアーキテクチャを決定するのか

製品、プロセスのアーキテクチャ、分業構造は、必ずしも意図的に計画されるものではなく、歴史的経緯に強く依存する。パーソナル・コンピュータのアーキテクチャがモジュール化されオープンにされなかったら、今日の情報産業の姿はなかったかもしれない。一度定着してしまったアーキテクチャは変更が難しいことが多く、環境に不適合になっても進化しないことがある。

しかしながら、アーキテクチャを組織や個人が意図的にデザインしていく余地がないわけではない。特に、情報技術の利用がプロセスのモジュール化にも統合化にも使えるということは、情報技術によってアーキテクチャをある程度制御できることを意味する。企業であるならば経営戦略としてモジュール化・統合化をデザインする可能性が広がっているのである。

(國領二郎, 奥野正寛, 永戸哲也, 高木晴夫, 柳川範之, 浦 昭二編『情報社会を理解するためのキーワード〈1〉』, 培風館, 2003年より抜粋)