情報技術が企業間関係に与える影響

竹田 陽子

草稿 ver.01/19/01

 

1.市場 vs. チームを超えて

 

情報技術のインパクトを経営という側面から研究する分野では、情報技術の企業間関係にもたらす影響には2つのパターンがあると考えられている。第一は、さまざまな製品やサービスがネットワーク上で、より効率的に取引されるようになるという「電子市場」である[i]。第二は、情報技術の支援によって企業間におけるコラボレーションをより強力にするという「電子チーム」である。[ii]

情報技術のインパクトが電子市場あるいは電子チームのいずれに働くかを決める要因としては、ある企業間関係においてのみ利用できる経営資源への投資が大きいほど、情報技術はチーム活動を支援する方向に使われるということが言われている。また、製品の標準化がすすんでいたり、コード化がおこないやすい製品であるほど、電子市場で取引される可能性が大きくなる。しかし、取引特殊投資や製品の特性は、企業の意図するところというより、その結果であり、そもそも企業が何を求めているかを語っていない。

より本質的には、電子市場の意味するところは、「多様な主体が結びつくことによって得られるメリット」を追求するために情報技術を利用するという方向であり、電子チームは、緊密な双方向のコミュニケーションにより企業間で「精緻に調整することによって得られるメリット」を追求するために情報技術を利用するという方向にあるといえるであろう。

多様な主体が結びつくことによって得られるメリットとしては、取引先候補が増えて、安くて品質の良いサプライヤーが探せるという例が挙げられる。さらに重要な現象は、異質な主体同士が出会ったときに思いがけない要因が発見できたり、それぞれ異なる文脈にあった知識が結合することである。言うまでもなく、インターネットの広がりは、多様な主体が結びつくことを従来に比べて容易にしている。

一方、企業間で密接に双方向コミュニケーションをし、精緻に調整していくことによって、完成度の高い複雑な製品やサービスを生み出していくことができる。また、そこで醸成される関係特殊知識や、企業間学習のためのルーティンといったものは貴重な経営資源になる。このような企業間における精緻な調整も、音声、画像、動画、3次元CADといった多様なデータをネットワーク上でやりとりする技術によって支援できる可能性が広がってきている。

この2つの方向性は、必ずしも背反するものではない。特に最近の情報技術の発達は、後に述べるように多様な主体と結合しつつ精緻な調整をおこなう可能性を高めつつある。従って、電子市場か電子チームかというダイコトミー(二分法)ではなく、図1に示すように、企業間関係において、多様な主体と結びつくメリットを追求するかどうか、精緻な調整によって得られるメリットを追求するかどうかという2つの軸で、4つの企業間関係のタイプを考えるほうがより建設的なインプリケーションを得られよう。

 IT利用のフロンティアは、多様な主体の結合と精緻な調整の両方のメリットを得られる(図1のC)世界をいかに実現させていくかである。

 

図1 企業間関係の4つのタイプ

2.多様な主体の結合と精緻な調整:流通業と製造業における事例

 

流通ネットワークの事例

1985年の通信自由化によって異企業間の取引情報を仲介するVANValue Added Network)と呼ばれるネットワークが多くの業界で誕生したが、歯磨粉や洗剤などの日用雑貨品の業界では「プラネット」が創設された。もともとメーカーが端末を共同利用するという発想で生まれたプラネットは、当初はわずか8社のメーカーと主要な卸売業者を結ぶネットワークであり、そこで交わされるデータも販売の報告や発注データなど限られていた。図1@の決まった相手との単純なデータ交換に使われていたと言えよう。

プラネットはその後、順調に参加メーカーと接続先の卸の数を増やし、現在の参加メーカーの数は200社を超える。卸が量販店の要求に応えて多様な商品を取り扱わなくてはならなくなったことを反映して、乾電池、ペットフード、薬など日用雑貨とは異なると思われてきた業界のメーカーも参加し始めた。多様な主体が結合する図1Aの企業間取引のインフラストラクチャとして成長したと言える。

Aの世界としては、近年、インターネット上にB to B (ビジネス・トゥ・ビジネス)のEコマースが多数出現しているが、システム化に欠かせない製品コードや取引手順といったものを標準化する段階で困難に直面している。もともと業界に根ざしていたプラネットは、参加企業とコミュニケーションをとりつつ、受け入れられる標準をつくり出すことできた。今後はインタ−ネットを利用することにより、さらに参加できる企業の幅を広げようとしている。

また、プラネットは、定型的なテキスト・データの交換だけでなく、商品の説明や商談など、画像や非定型なデータを含めた双方向的なコミュニケーションを業界内でおこなうことを試み始めている(図1B)。その行き着く先は、業界の境界が拡大する中で定型的なデータ交換以上のことをおこなう世界(図1C)であるが、プラネットがそのように進化するかどうかは、参加する企業が今までにないビジネスのあり方を切り開いていくかどうかにかかっている。

 

加工組立型製造業のサプライヤー関係と情報技術

自動車や電機といった加工組立型製造業は、さまざまな特性をもつ部品やサービスを調達する必要があるため、サプライヤーのタイプも多様である。まず、標準的な部品の製造や技術の提供に特化した企業は、さまざまな企業と取引するため図1Aに位置する。これに対して、特定の企業に対して部品やサービスを提供する一般に下請けと呼ばれる企業群がある。最も単純な下請は、親会社から製造するべき部品や加工を詳細に指示される図1@のかたちである。

 ところで、日本においてこれらの産業の成長する要因となったのは、単純な下請けではなく、顧客が仕様を示すだけで細部を設計することができるなど(承認図)、自らの技術力と顧客との調整能力に優れたサプライヤー群である。[iii]当初は顧客に言われたとおりに製造していたサプライヤーが、次第に開発の一部を担うようになることで、顧客との精緻な調整が必要になり、図1@からBへ進化していったと考えられる。

 また、もうひとつの進化したサプライヤーのかたちとして、他社に簡単にまねされない高度な要素技術を持つことで世界中の顧客を相手にし、標準部品とは違った理由で図1Aに位置している企業群も存在する。

さて、情報技術の利用可能性について考えてみると、Aにある標準的な部品の製造・技術提供は冒頭で述べたとおり、電子市場で扱いやすい製品である。インターネット等を利用し、取引相手の探索費用と取引に伴う間接経費を削減することを通じて、さまざまな企業が結びつく可能性を広げることができる。

一方、同じくAにある高度な要素技術のサプライヤーは、探索費用や取引に伴う経費に対して提供する製品・技術の付加価値が高いため、企業間取引における情報技術の活用はさほどに重要ではないかもしれない。Bにある特定企業との調整能力を強みとするサプライヤーも、取引相手が決まっているため対面コミュニケーションで十分かもしれない。従って、日本の製造業の強みが過去と変わらなければ、情報技術の活用は切実ではないように見える。

しかし、特定の顧客に高い調整能力を持っていたBのサプライヤーが規模と機会を求めて多様な顧客を相手にするCへ進化する現象が見られる。延岡はこのような現象を顧客範囲の経済性と呼んでいる。[iv]

また、Aにあった企業がより調整の必要な部品や機能を提供するようになり、Cへ進化するという流れもある。北米で急成長しているEMSElectronic Manufacturing Service)と呼ばれる企業群は、元来はパソコン等のマザーボードのアッセンブリという単純なサービスをさまざまな顧客に提供していたが、製造工程全体、調達、さらには製品開発やメンテナンスなどに機能を広げ、顧客とのコミュニケーションは非常に密接になっている。EMSが承認図部品のサプライヤー(B)と異なるのは、調整能力を高めても取引先の多様性を維持している点である。

多様な主体を結合させつつ精緻な調整をおこなう(C)という難しい課題をこなす際には、従来以上に情報技術が重要な役割を持つようになるだろう。また、単なる技術的な解決では不十分で組織のあり方から考え直さなければならない。最後に、Cを成立させる仕組みについて検討したい。


 

3.多様性と精緻な調整を両立させるしくみ

 

図2 各タイプにおけるコミュニケーションのあり方

4つの企業間関係のタイプにおけるコミュニケーションのありかたを考えてみよう(図2)。買い手が売り手に対し、環境、自社、相手企業のさまざまな要因(x1, x2..)を勘案して、このようなものが欲しいという結果(y1, y2..)だけを伝えるのが@である。しかし、取引相手が多様になる(A)と、相手企業の事情を考慮するのが難しくなる。そこで、Eコマースなどでは、問題解決の関数f(x)を明示することによって、買い手が一定のインプットx1, x2..を入れると売り手が何を供給するべきかy1,y2...を理解できるようにしている。一方、Bでは、取引相手が決まっているので買い手と売り手の間に隠れた関数、つまりあ・うんの呼吸をつくることで意志の疎通を図る。Aでは事前に関数を定めるためにできることが決まってしまうのに対し、Bでは状況に応じて柔軟に問題解決の方法を進化させていくことができるというメリットがある。

さて、多様な主体の結合と精緻な調整を両立させるCでは何がおこるであろうか。多様な主体が結合するには、インターフェースとして関数f(x)が明示される必要がある。その一方で、関数そのものを進化させるコミュニケーションがおこなわれなくてはならない。

 技術的には、最近の情報技術は階層化することによってCを可能にさせる方向に進んでいる。すなわち、物理的なネットワークや通信上の取り決め、文法のレベルでは標準化が進んでさまざまな主体が結びつきやすくなっている一方で、その上で映像や技術データなど多様な情報をやりとりすることによって個々の関係を反映した調整ができるようになりつつある。

 企業間関係としては、ネットワーク上で見られるさまざまなコミュニティのように、特定の目的・関心で何らかのグループが作られるが、各企業は同時にさまざまなグループに属しているという状態であると考えられる。まったくばらばらの主体が取引する瞬間だけに結びつくのでは関数を進化させるコミュニケーションはおこらない。また、ひとつの企業が全社的にひとつのグループに属するのでは多様な結びつきは生まれない。

 そのような関係の中でのインタラクションによって生まれた、しばしば暗黙的な成果を、明示的な関数の進化に反映させるには、関数にインプットする変数だけでなく、関数を変化させる可能性のある外的・内的要因が参加者に見えるように組織のプロセスを組み立てることが第一歩となる。企業間における情報共有とは、同じ会社にいるかのように情報が何でも得られることでは必ずしもなく、企業間のインターフェースとなる関数を常に進化させていく仕組みと考えるべきである。



[i] Malone, T.W., J. Yates, and R.I. Benjamin, (1987), “Electronic Markets and Electronic Hierarchies,” Communications of the ACM, Vol. 30, No. 6, pp. 484-497.など。

[ii] Bensaou, M. (1997), “Interorganizational cooperation: The Role of Information Technology, An Empirical Comparison of US and Japanese Supplier Relations” Information Systems Research, Vol. 8, No. 2, pp.107-124.など。

[iii] 浅沼萬里, (1997), 『日本の企業組織:革新的適応のメカニズム』, 東洋経済新報社.

[iv] 延岡健太郎, (1996), 「顧客範囲の経済:自動車部品サプライヤの顧客ネットワーク戦略と企業成果」, 国民経済雑誌, Vol.173, No. 6, pp. 83-97.