2003年6月組織学会研究発表大会発表予稿

技術に対する認識の多様性

金型・金属加工サプライヤーは3次元情報技術をどのように見ているか

横浜国立大学大学院環境情報研究院

240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-7


1.はじめに

新しい技術が登場したとき、その技術がいかなる特性を持ち、どのように使えばどのような効果が得られるのかは、必ずしも自明ではない。技術の認識は社会的に構築され、技術の流れと社会システムは、相互作用しながら進化していく(Leonard-Barton 1988, Orlikowski 1992, Fulk 1993, Bijker and Law 1992)。

3次元CADCAMCAEといった製品開発プロセスに利用される3次元情報技術群は極めて多義性を持った技術であり、特に近年は企業間のデータ連携やコミュニケーションに活用できるという側面が強まっている(竹田2000a,b)ため、完成品メーカーだけでなく部品や加工サービスを提供するサプライヤーが技術の特性を理解して活用できなければ、その潜在力を十分発揮させることができない。サプライヤーの技術に対する認識が産業全体のパフォーマンスを左右する可能性があるのである。本稿の目的は、製品開発において使われる3次元CAD などの3次元情報技術に対して金型・金属加工サプライヤーがどのような認識を持っているのかを分析することを通じて、技術に対する認識に影響を与える要因を探索的に抽出することである。

2.3次元情報技術に対する認識

2.1 データ

本稿では、財団法人機械システム振興協会から委託を受け財団法人素形材センターが実施した「素形材分野の新技術等流通システムに関するアンケート調査」(機械システム振興協会2000)のデータを使用する。この調査では、鋳造、ダイカスト、鍛造、プレス加工、粉末冶金、木型、金型、金属熱処理を行う企業(以下、金型・金属加工サプライヤー)の情報技術に対する意識と利用実態を把握するため、199911~12月、781社に調査票が発送され、239票(30.6%)が回収された。本稿では、このうち3次元情報技術を利用している企業による回答(N=95)を分析に利用した。

2.2 3次元情報技術に対する認識の次元

3次元情報技術の利用企業の中で、3次元情報技術はどのように認識されているかを、「3次元データ活用のメリット」「3次元導入の問題点」「3次元化への期待」に関する合わせて38の項目に対する回答の主成分分析によって見た結果が表1である。

第1の因子は、3次元情報技術を自社のプロセス改革を支援する道具として認識する軸(以下、自社のプロセス改革支援)であると解釈することができる。この因子には、開発コスト・開発期間といった総合パフォーマンスの向上や解析への活用、設計の合理化に関連する項目についての効果の実感と期待、さらに開発プロセス変更の必要性の認識が含まれている。

第2の因子は、NCデータの活用に関するメリットや期待が並んでいる。金型・金属加工サプライヤーにとって、顧客が支給する3次元データを受け取り、NCデータに変換する作業をおこなう3次元CAD/ CAMは、顧客とのデータ連結の接面(インターフェース)としての役割を果たしている。したがって、第2の因子は、3次元情報技術を顧客企業との間でデータを連結するインターフェースとして認識する軸であると解釈することができる。

 

表1:3次元情報技術に対する金型・金属加工サプライヤーの認識(主成分分析の因子得点表 N=95

 

第1因子

自社の

プロセス

改革支援

第2因子

データ連結のインター

フェース

開発コストが削減できる(メリット)

0.638

0.058

開発期間が短縮できる(メリット)

0.584

-0.210

開発プロセスを変更する必要がある (問題点)

0.579

-0.321

開発期間の短縮(期待)

0.558

-0.191

解析ができる(メリット)

0.530

-0.261

モデル修正が容易(メリット)

0.529

0.355

解析(期待)

0.527

-0.205

標準部品の登録・検索が容易(メリット)

0.511

-0.051

開発コストの削減(期待)

0.490

-0.133

標準部品の登録・検索(期待)

0.463

-0.049

設計が楽(メリット)

0.418

0.089

NCデータの検証、編集を容易に(期待)

0.264

0.557

NCデータの検証・編集が容易(メリット)

0.197

0.497

NCデータの作成を容易に(期待)

0.365

0.489

3次元データが受けられることによる受注の増加(期待)*

0.231

0.467

メンテナンス・サポートのコストがかかる(問題点)*

0.371

0.457

(第1、第2因子において因子得点0.4未満は省略)

固有値

4.54

2.69

寄与率

11.94

7.09

(固有値1以上の因子が第14因子まで抽出されたが、第3因子以降は、他の因子に比べて顕著に得点の高い項目が存在しないか、連関の解釈の難しい2,3の項目を含むのみであった。)

*第2因子には、データ連結のインターフェースを用意して、3次元データを受け取ることができなければ、3次元化の進んだ顧客の仕事を受けることができなくなってきているという事由含まれている。また、メンテナンス・サポートのコストがかかるという項目が含まれているのは、顧客とのデータ連結がさかんであるほど、データ変換のコストが高くなることと関連していると思われる。

次に、抽出した2つの因子の得点によりサンプルを4つの群に分けた(図1)。3次元情報技術を自社のプロセスの改革を支援するものとし、かつ、顧客とのデータ連結のインターフェースとしても認識している第1群(第1因子>02因子>0 N=17)は、顧客と統合されたプロセス改革を目指す群であると考えられ、これを顧客統合群と名付ける。3次元情報技術を自社のプロセスの改革を支援するものとして捉え、顧客とのデータ連結のインターフェースとしての認識は低い第2群(第1因子>02因子<0 N=18)は、内部プロセス改革群とする。顧客とのデータ連結のインターフェース、つまり、顧客からデータを受領することのみに技術の用途を限定する傾向がある第3群(第1因子<02因子>0 N=23)は、データ受領群とする。第4群(第1因子<02因子<0 N=37)は、両方の認識が低い低認識群である。

図1:サンプルの分布

2) 内部プロセス
改革群(N=18)

 

4) 低認識群
  (N=37

 

1) 顧客統合群
  (N=17

 

3) データ受領群(N=23)

 

 
 3.認識の違いを生む要因

前章で分けた4つの群の3次元情報技術に対する認識が生じる理由を、各群の企業特性を比較することで、その要因を探ってみたい。(以下、表2参照。)なお、各群の業種(金型、鋳造など)構成比には大きな差は見られなかった。

3.1 顧客統合群

顧客統合群は、71%が従業員100人以上の企業で、7割以上が完成品メーカーと直接取引をしており、特定系列のメーカーへの売上依存度が高い傾向が見られ(依存度50%以上が65%)、今後特定系列のメーカーへの依存度を下げていく意向も最も低い(56%)。業界としては、88%が自動車の完成品・部品メーカーを主要な顧客にしており、最も自動車業界に集中している群である。

サプライヤーが3次元情報技術の利用で自社内部だけでなく顧客とのプロセスを含めて高いパフォーマンスを達成するためには、1)サプライヤー自身が3次元情報技術を扱えるだけの資金力・人材を保有すること、2)プロセスを統合する顧客にもそれらの経営資源があること、3)プロセスを統合する顧客の数が多すぎないこと、などの条件が必要であると考えられる。これらの条件は、企業規模が大きく、完成品メーカーと直接取引し、特定メーカーへの依存度が現在・今後ともに大きいという顧客統合群の特徴と整合的である。自動車業界では、伝統的に電機などの他の業界に比べて完成品メーカーの強力なリーダーシップが発揮されるが、3次元情報技術の導入においても、自動車メーカー主導のもと、Tier1サプライヤーとのデータ連結とトータルのパフォーマンス向上が目指されていることが浮かび上がっている。

さらに、社内設計データに3次元、特に最新の3次元ソリッドが占める割合が31%4群中最も高く、顧客からの受け取るデータにおいて顧客と同じCADのデータ比率が24%と高い傾向が見られることも、この群では3次元情報技術を利用して顧客との高度なプロセス統合が進められていることを物語っている。また、正式受注前の意見交換や仮データの受取が頻繁におこなわれる率(63%50%)がデータ受領群や低意識群に比べて有意に高いことから、コンカレント・エンジニアリングによるプロセスの前倒しが進められていることが推察できる。

3.2 内部プロセス改革群

3次元情報技術を自社のプロセスの改革を支援するものとして捉えるが、顧客とのデータ連結のインターフェースとしての認識は薄い内部プロセス改革群は、金型・金属加工サプライヤーとしては規模が大きく(従業員100人以上が89%)、完成品メーカーとの直接取引が多い(71%)という特徴は顧客統合群と似ているが、特定系列のメーカーへの売上依存度が最も低く(売上依存50%以上が35%)、今後についても売上依存度を下げていく意向を示している企業が82%と多い点が異なる。つまり、顧客統合群と内部プロセス改革群は、同じように経営資源には余裕を持ちながら、顧客統合群は特定顧客との関係を深めようとするのに対して、内部プロセス改革群は取引機会を広げる意向を持つという差異が現れているのである。

取引機会を広げる意向を持っているといっても、顧客とのコミュニケーションが薄いわけではない。メーカーは信頼のおけるサプライヤーに対しては、正式受注前に意見交換をしたり、仮のデータを渡すといったことがおこなうが、内部プロセス改革群の中でこの2つが頻繁にあると答えた回答者の割合は顧客統合群とともに高水準である。おそらく技術力の高さが顧客に評価される一方で、特定顧客に依存しないだけのパワーを生み出しているのであろう。

この群は、取引集中度が低いのに関わらず、自社と同じ種類のCADデータを受け取る比率が顧客統合群に次いで大きく20%ある。この事実をどう解釈するかであるが、内部プロセス改革群は比較的経営資源が豊富であるので、複数のCADを導入し、顧客がどのようなデータを受け取ることを要請しても対応可能であるという仮説が考えられる。この群では、3次元CADの平均保有台数が18.4台で顧客統合群に次いで多い。顧客統合群は同じ種類のCADに集中して投資するのに対し、この群では異なる種類のCADをある程度揃えておくという行動がみられる可能性がある。

3.3 データ受領群

顧客とのデータ受領のみに技術の用途を限定しているデータ受領群は、業界の構成比や特定系列のメーカーへの売上依存度では平均に近いが、従業員100人以上の企業が48%4群中最も企業規模が小さく、経営資源が乏しい群であると考えられる。3次元CADの平均保有台数は、6.8台と4群中最も少ない。しかし、自社内部での3次元データの使用比率は54%で内部プロセス改革群と比べて差があるわけではない。顧客からのデータは3次元の生データではなく中間ファイル(IGES)で受け取り、内部では面形状を表現するサーフェス・データとして取り扱うケースが比較的多いことから、顧客から指示された3次元形状を正確に再現することに重点をおいている企業群であると推察できる。

取引先相手は、完成品メーカーの比率が57%と他の群に比べて最も低い。正式受注前に顧客と頻繁に意見交換をするケースは27%、仮データを頻繁に受け取るケースは18%と最も少ない。この群では、3次元情報技術を顧客とのコミュニケーションに使うという認識はあまり見られない。

3.4 低認識群

3次元情報技術に対して、自社のプロセス改革を支援するものとしての認識も顧客のデータを受けるものとしての認識も低い低認識群は、企業規模は決して小さくなく従業員100人以上の企業が81%ある。顧客から受け取るデータや内部で使用するデータでは、3次元データの比率が内部プロセス改革群やデータ受領群に比べて特に低いわけではない。業界別では自動車業界の比率が低い傾向が見られる(57%)。直接取引比率や特定系列のメーカーへの売上依存度、今後の取引意向は平均に近い。

低認識群は、3次元化に対応する経営資源がありながら、顧客統合群のように自動車メーカー等から統合を求められるわけではなく、内部プロセス改革群のように取引機会を広く求めるわけでもなく、また、データ受領群のように形状の正確な伝達に注意が集中しているわけでもなく、3次元情報技術を活用する明確な動機が少ないのかもしれない。

表2:各群の特性

 

顧客

統合群

内部プロセス改革群

データ受領群

認識群

N

(17)

(18)

(23)

(37)

従業員数

100人以上

71%

89%

48%

81%

(100人以上と100人未満のカイ2乗値=10.47 df=3 P<0.05)

自動車業界

88

72

78

57

(自動車と他業界のカイ2乗値=6.63 df=3 P<0.1)

完成品メーカーと直接取引

71

71

57

65

特定系列への依存度50%以上

65%

35%

41%

47%

今後の特定メーカー系列への依存度減少

56

82

76

61

正式受注前の頻繁な意見交換

63%

61%

27%

56%

(カイ2乗値=6.84 df=3 P<0.1)

正式受注前の頻繁なデータ受領

50%

50%

18%

42%

(カイ2乗値=5.84 df=3 P<0.1)

3次元CAD

平均保有台数

24.0

18.4

6.8

7.4

(F=5.22 df=3, 91 P<0.01)

顧客から受け取るデータの内訳(平均値)

図面・2次元データ

59%

56%

54%

50

自社と同種3次元CADデータ

24

20

11

16

異種3次元CADデータ

24

17

11

16

3次元中間ファイル(IGES, STEP

STEP)

16

18

23

21

設計における3次元データの比率(平均値)

3次元データ全体

66%

50%

48%

48%

内、3次元ソリッド

31%

23%

17%

13%

(F=2.09 df=3, 90 P<0.1)

(特に記述がない項目は、カイ2乗値、F値は有意水準以下)

 

 

 

4.まとめ

本稿で分類したユーザー群のうち特徴がはっきりしない低意識群を除く3つの群は、3次元情報技術の利用におけるプロセス最適化の範囲と顧客との関係性の認識において図2のように整理することができる。顧客統合群は、3次元情報技術によって特定顧客との関係を深めようとする方向性を持ち、特定顧客と自社の双方が含まれた範囲においてプロセスを最適化しようとする。内部プロセス改革群は、特定顧客に偏らない幅広い取引関係を志向しつつ、顧客との密接な相互調整をおこなう。しかし、プロセス最適化の範囲はあくまで自社にある。データ受領群は、顧客からの指示を正確に情報転写する手段として3次元情報技術を認識しており、プロセス改革をおこなう手段として認識していない。

本稿で使用したデータから推論できる範囲では、3次元情報技術に対する認識に影響する要因としては、経営資源の豊富さ、特定顧客への売上依存度と今後の意向、暗黙的には顧客からの要求がある。経営資源の豊富さは、データ受領群と顧客統合群・内部プロセス改革群を分ける大きな要因である。情報化投資や人材の手当、メンテナンスの費用を支出する体力がなければ、情報技術をプロセス改革に用いることは難しいので、そのような認識になりにくい。データ受領群は、顧客から3次元形状データを受けることを要求されるが、そのために大規模に仕事のやり方を変えるつもりはない(そのような余裕はない)企業群である。

顧客統合群と内部プロセス改革群を分ける要因は、特定顧客への依存度(今後の意向も含む)である。顧客統合群は特定顧客との関係のため技術を導入するので、受身の技術導入という意味ではデータ受領群に近い。一方、内部プロセス改革群は、特定企業に依存しない志向性がはっきりと見え、自社のパフォーマンス向上など戦略実行のツールとして3次元情報技術を認識していると推察でき、今後、金型・金属加工産業の情報化進展の鍵を握る層であると考えられる。

図2:各群のプロセス最適化の志向と顧客との関係

参考文献

Bijker W. E. and J. Law (1992) ”Shaping Technology/Building Society,” MIT Press.

藤本隆宏・延岡健太郎・青島矢一・竹田陽子・呉在烜 (2002)「情報化と企業組織:アーキテ